松浦理英子著『葬儀の日』感想/結合する泣き屋と笑い屋

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『葬儀の日』表紙

こんにちは、なな子(@nnk__1105)です。

今日は松浦理英子さんの『葬儀の日』を読みました。松浦理英子さんは本作で1978年に第47回文學界新人賞を受賞しデビューしています。それでは早速感想を書いていきたいと思います。

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『葬儀の日』あらすじ

葬式に雇われて人前で泣くことを生業にしている「泣き屋」と、同じく葬式に呼ばれて笑うことが仕事の「笑い屋」。「泣き屋」と「笑い屋」の間に芽生えた不吉な愛とは──

『葬儀の日』感想

以下ネタバレあり。ネタバレが苦手な方はお気をつけください。

文体について

松浦理英子の作品は、『奇貨』と『ナチュラル・ウーマン』を読んだことがあったが、ともすれば初心者に思われてしまうほど危ういラインをいく柔らかく読みやすい文体が特徴だと思っていたので、本作の文章の硬さには驚いた。

本作は松浦理英子が20歳のときに書いたものらしい。作者の人となりで作品を見ることは褒められた行為ではないが、20歳のときに書いたものと知って納得した。その文章は構造を含めてまだ完成しきっていない。昨今の松浦理英子作品から入った人間には読みにくいだろう。しかし、この作品を書く上で松浦理英子は20歳じゃなければいけなかった。それ以上未熟では読める形まで整わなかっただろうし、女を過ぎれば書けなくなるような話だ。

『葬儀の日』が書かれる条件には松浦理英子が20歳であることが必要だった。そう思って読んだ。

アンドロギュノスの思想

アンドロギュノスという言葉をご存知だろうか? アンドロギュノスとはギリシャ語で両性具有を意味する。「人間はもともと男女(おめ)と呼ばれる手足が4本ずつ、顔と性器が2つずつの状態で生きていた。ところがゼウスの手によって両断されたため、手足が2本ずつ、顔と性器が1つの半身になった。半身はもう半分の自分を求めて、女は男を、男は女を求めた。それを恋と定義づけた」という考え方である。

『葬儀の日』の世界観ではどうやらこのアンドロギュノスのような、自分の「半身」がいるということらしく、そして「泣き屋」「笑い屋」は半身に出会いやすいという設定があるようだ。

「泣き屋」である主人公は15のときに参列した葬式で、同じく15歳の「笑い屋」の女に出会った。そのふたりが周りの同業者に反対されながらも不吉な愛を紡いでいくというのが本筋である。

本作にはこのように書かれている箇所がある。

私が笑い屋でなく、あなたが泣き屋でなくなったら、私たちは二人である必要もなくなるであろう。現実には私たちは二人だ。一人である方がずっとすっきりしているはずなのに。完全に一人であることは身に余るから、二人であらざるを得ないのかもしれない。

松浦理英子『葬儀の日』

これはまさにアンドロギュノスのことではないだろうか。「完全に一人であることは身に余る」というのは、周りの人間が手足が2本ずつ、顔と性器が1つの半身で生きている中、アンドロギュノスとして結合することを指すのではないだろうか。現に泣き屋の主人公は同業者たちから「あまりあの笑い屋に入れ込むんじゃない」「恋人でも作れ」とたしなめられるシーンが何回も出てくる。同業者たちも半身と出会っていて、だが結合することはせず、各々で生きているのだ。

松浦理英子の描く同性愛

わたしの知っている限り、松浦理英子の作品には必ず同性愛者が出てくる。

本作では泣き屋である主人公の同業者で、同じくらいの年齢の少年が同性愛者だ。実は主人公はこの少年から好かれており、一度体の関係を持つ。しかし主人公は笑い屋の女以上に少年を愛することができなかった。

これは、アンドロギュノスが男女(おめ)でしか成立しないからではないだろうか。男同士ではアンドロギュノスになれないから、求め合わない。それを松浦理英子は描きたかったのではないかと思う。

ラストについて

ラスト、泣き屋の主人公は笑い屋の女の葬式に参列することを最後の仕事だと言っている。笑い屋の女は死んだのだ。女の葬式に向かう主人公の背中に、同賞者の老婆が叫ぶ。「今度こそあんたたちは結合するんだ!」

わたしはこのラストを読んで、男は式が終わり次第自殺をするのではないかと推察した。半身の姿を求めて、誰からも何も言われない、周りに誰もいない二人きりのアンドロギュノスになるには男が死ぬしかないのである。

まとめ

今回は松浦理英子さんの『葬儀の日』を読んで、アンドロギュノスという観点から考察してみました。松浦理英子さんの作品はやはりおもしろく、恋愛要素も浮ついていなくて読んでいてドライブ感があります。文章にのめりこめる。これからも松浦理英子さんの本を読みたいと思えるデビュー作でした。

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

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なな子

なな子

なな×ロマを運営しているなな子です。文学とあたたかいお茶と高所が好き。
日常をちょっと豊かにするブログとしてあなたの毎日に寄り添えたらうれしいです。

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