川上未映子著『わたくし率イン歯ー、または世界』感想/わたしとは誰

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『わたくし率 イン 歯ー、または世界』表紙

こんにちは、なな子(@nnk__1105)です。

今回は川上未映子さんの『わたくし率 イン 歯ー、または世界』の感想を綴っていこうかと思います。こちらの作品は川上未映子さんのデビュー作でもあり、芥川賞の候補に入ったことで世間から注目を集めました。(惜しくも受賞は逃しましたが、その後『乳と卵』で見事受賞を果たしています)

川上未映子さんの作品といえば方言小説としても有名です。関西圏の人間ではないのですこしテンポを掴みにくいところもありましたが、有意義な読書体験でした。早速レビューをしていきましょう。

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『わたくし率 イン 歯ー、または世界』あらすじ

人は一体体のどこで考えているのか、それは脳。ではなく歯──そう思った「わたし」は、歯科助手に転職する。恋人の青木を想い、まだ身ごもっていない将来の子供あてに日記をつけ、「わたし」は日々歯で思考する。

『わたくし率 イン 歯ー、または世界』感想

本作の中では「わたしは誰?」という哲学的な問いや、形而上や形而下について触れる。そしてなによりも目をひくのがタイトルだ。

わたしとは誰?

本作では一人称の表記がゆれる部分がある。引用する。

わたしと私をなんでかこの体、この視点、この現在に一緒にごたに成立させておるこのわたくし!

ああこの形而上が私出会って形而下が私であるのなら、つまりここ!!

この形而中であることこのわたくし!!このこれのなんやかんや!

わたくし率 イン 歯ー、または世界

つまり、形而上(形を持っていないもの)の自己を語る言葉を「私」、形而下(形あるもの)の自己を語る言葉を「わたし」と使い分けた上で、その二つが一致する場所である形而中で自己を語る言葉を「わたくし」と定義している。

噛み砕くと、心の自己と肉体の自己を一致させているまさにこの自分が「わたくし」としているのだ。

人間が、一人称が、何でできてるかゆうてみい、一人称はなあ、あんたらなにげに使うてるけどこれはどえらいもんなんや、おっそろしいほど終わりがのうて孤独すぎるもんなんや(中略)なあ、自分で考えてゆうてみい、そこになんでかこうしてあるそのなんやかんやの一致の私は何やてほれ今ゆうてみい、わたしは歯って決めたねん、わたしは歯って決めたんや

わたくし率 イン 歯ー、または世界

そして「わたし」が宿る肉体は具体的に「歯」を指すのだ。主人公にとって、わたしとは歯なのだ。歯とはわたしそのものなのである。

タイトルの意味

『わたくし率 イン 歯ー、または世界』の「わたくし」は前述した通り、心の自己と体の自己を統括している存在である。では「わたくし率」とはなにを指すのか。これはおそらく「わたくしである割合」のことだろう。

「歯ー」は、「わたし」が歯と定めた様に、体のどこに自己があるのかーつ決めることができるという意味と捉えた。

つまり『わたくし率 イン 歯ー、または世界』とは、「わたくしの肉体の一部、例えば歯、が世界に占める割合」という意味になる。

『雪国』について

作中で川端康成の『雪国』について触れられる部分がある。

お母さんは、中学生のときに、図書館で、青木とはじめてしゃべりました。

青木は、雪国、という昔の日本の小説の、〈国境の長いトンネルを抜けると雪国であった〉、という書き出しをお母さんに見せて、この文章の主語は何だと思いますかと聞いたのです。これは、とても素敵な文章で、この文章だけは他の国の言葉にはうまく訳せないのだと、青木は笑いながらいいました。この文章の主語は、トンネルをくぐってゆく列車でも、主人公の島村でという男でも、ないよ。青木はそう云いました。その話を聞いてから、お母さんはなんだかよくわからない、不思議というような気分いなって、でもなにか、そこには、お母さんが知りたい秘密のようなものが、いつでもあるような気がしているのです。

わたくし率 イン 歯ー、または世界

ここで川端康成を取り上げているのが非常に作用している。川端康成は自殺をした作家だ。

つまり、「わたし」に「私」を殺されたのだ。

雪国のあのはじまりの、わたくし率が、限りなく無いに近づいている同時に宇宙に膨らんでゆくこのことじたい、愉快も不快もないこれじたい、青木がわたしに教えてくれた、何の主語のない場所、それがそれじたいであるだけでいい世界、それじたいでしかない世界、純粋経験、思うものが思うもの、思うゆえに思うがあって、私もわたしもおらん一瞬だけのこの世界、思う、それ

わたくし率 イン 歯ー、または世界

この文章がわたしは一等好きだった。

主人公は本来「無」になりたいのかもしれない。主語なんてない、私もわたしもわたくしもいない世界に行きたいのかもしれない。でもそれすら叶わないから、彼女は今日も歯で思考するのだ。

まとめ

今回は川上未映子さんの『わたくし率 イン 歯ー、または世界』を読んで感想を書き綴っていきました。一週目はするりとは入ってこなくて読みにくいところもあったのですが、このブログを書くにあたって二週目を読んでいると、なんだか言葉がラップみたいなテンポだなあと思えて、本来すごくリズム感のいい小説なんだなと思いました。内容も叫ぶようにわたしに問い続ける主人公。その痛々しさが、自分にも伝播してくるような感覚がありました。気になった方は、ぜひ読んでみてください。

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

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なな子

なな子

なな×ロマを運営しているなな子です。文学とあたたかいお茶と高所が好き。
日常をちょっと豊かにするブログとしてあなたの毎日に寄り添えたらうれしいです。

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